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高松地方裁判所 昭和41年(ワ)247号 判決 1969年10月21日

原告 国鉄労働組合

右代表者中央執行委員長 中川新一

右訴訟代理人弁護士 阿河準一

同 西田公一

被告 橋本良蔵

<ほか五七名>

右五八名訴訟代理人弁護士 中村一作

同 佐長彰一

主文

被告らは、原告に対し別紙二の請求金額欄記載の金員およびこれに対する別紙二の損害金起算日欄記載の日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

この判決は、かりに執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一、原告

主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする」との判決。

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告は、日本国有鉄道(国鉄)の職員によって結成された単一労働組合であり、被告らは、いずれも、もと原告組合の組合員であり、原告組合の四国地方本部(以下四国地本という)に属していたところ、別紙二の各脱退年月日欄記載の日に原告組合を脱退したものである。

2  組合員は、組合員たる地位に基づき国鉄労働組合規約(以下組合規約という)第二七条第四号「組合員は、次の権利と義務をもつ。(4)組合費を納入すること」との定めにより、組合費納入義務を負う。組合費のうち一般(定期)組合費は組合規約第四三条第二項本文「組合費の月額は大会できめる。」との規定により月単位をもってその額が定められているために、月の途中で組合を脱退した場合の一般組合費の取扱いは原告組合会計事務指導要綱第五章3の(1)の①、③および④すなわち「①非組合員となった発令日が、その月の五日までの場合は、当月の組合費は徴収しない。③六日以降の発令の場合は、一般組合員と同様に取り扱う。④退職および脱退の場合も①、②、③の三項に準じて取り扱うこと」との定めに基づき月の五日までに脱退した者については、当該月の組合費は徴収せず、月の六日以降月末までに脱退した者については、日割計算をすることなく当該脱退した月の一月分の組合費全額を徴収することになっている。ところが、被告らのうち月の五日までに脱退した者および被告橋本良蔵、川染充、赤松恒一郎、村井智行、柏原清、武内昭夫を除いたその余の被告らは、脱退した月の一般組合費として、別紙二の一般組合費欄記載の金額の納入を怠っている。

3  つぎに、原告組合は、左記のとおり被告らが脱退する以前に臨時組合費の徴収を決議し指令(指示)した。臨時組合費の納入に関しては、前記組合規約第二七条第四号のほか、同第三号「組合機関の決定に服すること」との規定により、組合員は、組合機関の決議に服する義務を負うものであるから、全国大会または中央委員会において臨時組合費徴収の決議がなされたときは、組合員はその決議に拘束され、組合員はその支払義務を負担することとなる。

(一) スト資金積立金等

昭和三六年一〇月一七、一八両日開催の第五九回中央委員会において決議され、同月二四日中央執行委員長より指令第一一号をもって左記のごとく各地本執行委員長に対し指令されたもので、スト資金積立金その他の費用も含めて各組合員三、二〇〇円の負担とされ、昭和三六年一一月より昭和三九年三月までの間毎月一〇〇円宛徴収することとされた。各地本執行委員長は、右指令を各支部に指示した。

(1) 昭和三六年度分 五〇〇円(スト資金積立金二〇〇円、春闘資金二五〇円、および炭労(日本炭鉱労働同盟)カンパ五〇円の合計金)

(2) 昭和三七年度分 一、二〇〇円(スト資金積立金)

(3) 昭和三八年度分 同右(同右)

(4) 昭和三九年度分 三〇〇円(同右)

(二) 昭和三七年一二月年末臨時徴収

昭和三七年一一月九、一〇両日開催の第六二回中央委員会において決議され、同年一二月一日中央執行委員長より、炭労、全鉱(全日本金属鉱山労働組合連合会)闘争、水俣闘争等支援のため指令第一五号をもって各地本執行委員長に対し、同年の年末手当より徴収する旨を指令し、四国地本執行委員長は指令第九号をもって、各支部に、右同旨の指示をしたもので、各組合員三五円の負担である。

(三) 昭和三八年三月春闘臨時徴収

昭和三八年一月二九、三〇両日開催の第六三回中央委員会において決議され、同年三月三〇日中央執行委員長より春闘々争費(賃上げ、職務給導入反対、および、弾圧対策のため要する費用)として、指令第三三号をもって各地本執行委員長に対し、昭和三八年度年度末手当より徴収する旨を指令し、同年二月七日四国地本執行委員長は、各支部に対し指示第四号をもって右同旨の指示をしたもので、各組合員二〇〇円の負担である(春闘費一〇〇円、公労協(公共企業体等協議会)春闘経費五〇円、および弾圧対策費五〇円の合計金)

(四) 臨時闘争費

昭和三六年一月二三、二四両日開催の第五六回中央委員会において決議され、同年二月七日四国地本執行委員長より各支部に対し臨時闘争費として指令第一九号をもって昭和三六年度年度末手当より徴収する旨指令したもので、各組合員三〇〇円の負担である(公労協犠牲者対策資金一〇〇円、本部闘争資金七〇円、地方労働組合評議会・地方本部闘争資金一〇〇円、および炭労三池最終資金三〇円の合計金)

ところが、前記各臨時組合費について、別紙二の各該当欄記載の金額につき、当該被告は、その納入を怠っている。

4  よって、原告は、被告らに対し別紙二の請求金額欄記載の各金員、およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である別紙二の損害金起算日欄記載の日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告の答弁および主張

1  請求原因第1項の事実は認める。同第2、第3項の事実中被告らにおいて原告主張の金額の金員を原告組合に納入していないことは認める。

2  組合員の原告組合に対する組合費納入義務は法的に履行を強制されるものではない。

元来労働組合、とくに原告組合のごとくオープンショップ制を採用している労働組合は、組合の目的に賛同する同志的結合団体であるから、いわゆる法的強制を裏付けとして義務の履行を求めうるものではない。このことは、原告組合四国地方本部規約(以下地本規約という)第二四条第一項第三号に組合員の処分理由として「組合員として義務に違反する行為のあったとき」と定められ、義務違反について、単に除名の規定を設けているに止め、また、原告組合四国地本執行委員長の昭和三六年二月七日付地本指令第一九号に組合費徴収について「理解と協力を求め」という表現がなされていること、および地本規約第二二条は、非組合員となった者が、既に納入した組合費の返還の請求ができないことを定めながら、組合費の徴収については何等の規定もないことからも明らかである。

3  かりに一般組合費の未納分につき法的に支払義務があるとしても、月の途中で脱退した者が一月分の組合費を支払う理由はなく、日割計算による支払義務があるにすぎない。

第三立証≪省略≫

理由

原告が国鉄の職員によって結成された単一労働組合であり、被告らは、いずれも、もと原告組合の組合員であって、原告組合の四国地本に属していたところ、別紙二の各脱退年月日欄記載の日にそれぞれ原告組合を脱退したものであることおよび、被告らが、原告主張の金額の金員を原告組合に納入していないことは、いずれも当事者間に争いがなく、請求の原因第3項記載の事実のうち原告主張の各臨時組合費徴収の決議および指令、指示がなされたことは、≪証拠省略≫によりこれを認めることができ右認定に反する証拠はない。

ところで被告らは、組合員の原告組合に対する組合費納入義務は、法的に履行を強制されるものではない旨主張するので、先ずこの点について検討する。

≪証拠省略≫によれば、組合規約第二七条は、組合員は次の権利と義務をもつと規定し、第三号に「組合機関の決定に服すること」、第四号に「組合費を納入すること」との定めがあること、また第二一条は、次の事項は中央委員会できめなければならないとされ、第五号として「臨時納金の徴収」が定められていることが明らかであるところ、≪証拠省略≫によると、右にいう臨時納金とは、臨時組合費を指称するものであることが認められる。

およそある社団が、特定の目的のために結成された場合、その社団に加入し、その構成員となった者は、内部規則(定款、規約等)もしくは権限ある機関の決定に服従することが要請されることは、その団体の統一された活動の必要性からして当然といわなければならない。そしてこのことは、労働組合においても同理であって、その構成員たる組合員は、自主的な法規範たる組合規約、もしくは権限ある機関の決定には、当然服従すべきものといわなければならない。したがってことが、組合費納入に関する場合であっても、それが組合規約において義務づけられ、権限ある機関において決定された以上は、組合員は、これにき束され、組合費を納入すると否との自由を有せず、強制的に組合費を納入する法的義務を負担するものというべきである。

そうすると原告組合において、組合費納入につき、組合規約上前記のとおりの規定があり、かつ原告主張の各組合費につき、既に認定したような機関決定がなされた以上、被告らは、組合員として当然原告主張の金額の組合費を納入すべき義務があり、これを怠るときは、原告組合は、裁判上、これを請求しうるものというべきである。

被告らは、組合費納入義務は、法的に履行を強制されるものではない旨様々主張するけれども、右主張は、前説示に照らし、到底採用することができない。

次に被告らは、一般組合費については、月の途中で脱退した者は、日割計算による支払義務があるにすぎない旨主張するので、判断する。

被告らが、それぞれ原告主張の日に、原告組合を脱退したことは前記のとおり当事者間に争いがない。ところで、前示甲第一号証の一、二によれば組合規約第四三条第二項本文には「組合費の月額は大会できめる」との定めがあり、一般組合費は、月単位で定められているものと考えられるところ≪証拠省略≫を綜合すると、昭和二九年に開催された第一三回全国大会決定にかかる原告組合会計事務指導要綱第五章3の(1)(休職者および非組合員となった場合の組合費の取り扱い方)①、③および④により組合員が脱退した場合それが月の五日までの場合には、当該月の組合費は徴収しないが六日以降の場合には、一般組合員と同様に取り扱われ、したがって当該月の一月分の組合費を徴収される取り扱いがなされていることが認められ右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると原告組合においては、組合員が月の途中で脱退した場合でも当該月の一般組合費は、その全額を納入すべく、被告ら主張の如く日割計算によるべきものではないと解するのが相当である。

したがって被告らの前記主張も採用することができない。

以上に認定判断したとおりであるから、被告らは、原告に対し別紙二記載の金員を支払う義務があるものというべきである。

よって被告らに対し、別紙二の請求金額欄記載の金員およびこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日であることが本件記録上明らかである別紙二の損害金起算日欄記載の日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の本訴請求は、正当であるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 板坂彰 政清光博)

<以下省略>

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